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本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
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Posted by まめやもり - mameyamori - 2007.05.30,Wed

 昔読んだ『ヰタ・セクスアリス』を、青空文庫でちらちら眺めていたら次のような記述に行き当たった。

 そのうちに出歯亀(でばかめ)事件というのが現われた。出歯亀という職人が不断女湯を覗く癖があって、あるとき湯から帰る女の跡を附けて行って、暴行を加えたのである。どこの国にも沢山ある、極て普通な出来事である。西洋の新聞ならば、紙面の隅の方の二三行の記事になる位の事である。それが一時世間の大問題に膨脹(ぼうちょう)する。所謂(いわゆる)自然主義と聯絡(れんらく)を附けられる。出歯亀主義という自然主義の別名が出来る。出歯るという動詞が出来て流行する。金井君は、世間の人が皆色情狂になったのでない限は、自分だけが人間の仲間はずれをしているかと疑わざることを得ないことになった。

 『ヰタ・セクスアリス』を以前に読んだのは定かでないがたしか高校生の頃で、もうXXX年も昔のこと。こんな記述があったことはすっかり忘れている。
 それにしてもこの記述。もしかして出歯亀というのは実在の人間だったのか。驚いてちょっと検索してみたところ、なんと1908年に起きた強姦殺人事件の容疑者ということではないか。なんと・・・。もしかしてこれは良く知られた話なのか。しかしものを知らんなあ自分。
 ウィキペディアのページを見てみると、どうやら当該事件は直後から長く冤罪疑惑が付きまとっているいわくつきの事件でもあるらしい。

 ウィキペディアは変な記事が多いというか大半が変な記事のような気もするのだが、この出歯亀の項目はなぜだか文章が落ち着いている。「窃視趣味と強姦殺人(あるいは致死)との間には大きな隔たりがある」などはまったくその通りだろう。「なお歯科医の立場からは、歯の噛み合わせと好色とには相関関係は無いとされる」などの馬鹿馬鹿しい一文や(冗談のつもりかもしれないがそれにしてもできが良くない)、「その他」項目をのぞけば、まともな部類に入るのではないか。

 いっぽう、手元の広辞苑(第五版)には

でば-かめ【出歯亀】
(明治末の変態性欲者池田亀太郎に由来。出歯の亀太郎の意)女湯をのぞくなど、変態的なことをする男の別称。

と、あるが、上記のような事件の性質を考えればこの記述は酷すぎないか。
 冤罪うんぬんを脇に置くとしても、かりにも強姦殺人という深刻な事件をこういうふうに扱うのはどんなものか・・・ううむ・・・いや辞書の性質上、くわしいことを書けないのはわかっているつもりなんですが。
 
 まあそんなことを言ったら、そういう深刻な事件にたいして出歯亀主義とか出歯るとかアホなこと言って喜んでる明治の文壇もこう、なんというか・・・救いようがないというか。・・・出歯るって、なあ。やたらレトロモダンな語感(10年くらい前の語感)の造語であるのがよけいアホくさい。(コクるとかスタバるとかそのへんの)




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