本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
Posted by まめやもり - mameyamori - 2008.08.22,Fri
2008年、イギリス作品。一人のロック・ミュージシャンくずれが恋人に「またしても」フラれたのをきっかけに、自分がどうしてまともな恋人関係を作れないのか、よい彼氏になるにはどうすればいいのかを探るべく、何十人もなる元彼女に次々とインタビューをしていくドキュメンタリー。
いやあ、こんなに笑い続けさせられた映画は久しぶりでした。監督兼主人公のクリスの自虐っぷりには、もう脱帽するしかない。ここまで自虐ギャグな映画もちょっと珍しい。
超低予算映画だし、さすがに日本には行かないかなぁぁぁ……と思うけど、あんまり笑ったので紹介しときます。
ドキュメンタリーというと社会性と政治性の強い、社会に何か「もの申す」手段というイメージがありますが、この作品、「わが性的失敗の完全なる歴史(A Complete History of My Sexual Failures)」はそのイメージとは正反対で、最初から最後までひったすらに恋愛ネタでお下品です。社会の暗部に迫ってやろうとか、聞かれない声、押し隠されている声を届けようだとか、そういう問題意識はよくも悪くもまったくありません。恋愛とか性とかいう問題に社会的な視点から切り込んで行くときの「個人的なことは政治的なことだ」という姿勢すらまったく共有していません。ただひたすら「ぼくはなんで彼女にフラれるのかなあ」ということを、2時間たっぷりかけておバカにおアホに追求していくのみ。
新聞かなんかのレビューで、「こんなのやってみようかなと誰しもが一度は考えた事があるような、しかし誰もが一度として本気でやろうとは思わなかった事を、クリス・ウェイトはやってのけた。セレブでもない見知らぬ他人のリアル恋愛事情という、世界でもっとも退屈なテーマをここまでの娯楽作に仕上げた手腕には脱帽」と書いてあった。褒めているのか馬鹿にしているのか、かなり微妙なレビュー。
上に自虐ギャグ自虐ギャグと書きましたが、とにかく凄いのが監督クリスのダメ男っぷり。しょっぱなからちょっとびっくりするくらい足の踏み場もない混沌の自室シーンから映画は始まり、元彼女にインタビューをすることを決めたはいいものの、元彼女の誰が誰だったかもきちんと思い出せず、自分の母親のところに相談に行って、母親が(なぜか)キープしていた彼宛のラブレターの束をチェックするようなていたらく。
つか本気で 最 低 この男
両手の指では到底数えきれないほどの元彼女たちには、ことごとくこっぴどいフラれ方をしており、たとえば「Dear Shit-fuck」で始まる手紙で別れを告げてきた女の子はいるわ、彼がいかに最低の恋人だったかを物語る自伝小説を出版されるわ、さんざん。いざ電話をかけてみても、次から次へと「ごめん、もう二度と顔を合わせたくないの」という返事のオンパレードで、最初のインタビューの予定すら立たない。たとえばこんなふう。
「もしもし」
「もしもし?」
「クリスだけど」
「……ああ……」
「久しぶり」
「そうね」
「元気だった?」
「まあね」
「ちょっと話したい事があるんだけど」
「うん」
「おれ、こないだ彼女に捨てられたんだよね」
「…………またぁ!?」
「うん」
「……」
「それでもってね」
「ああ……」
「おれも自分に悪いところがあるんだろうと思ってね」
「ん」
「元カノ全員にインタビューしてさ」
「……」
「映画にしようと思ってんだよね」
「……」
「で、協力してくれるかなあと思って」
「(ブツッ ツー ツー ツー ツー ツー ツー)」
まあこんな感じで難儀しつつも、おそろしく寛容な母親の協力もあって(母親……)、なんとか数人のインタビューにこぎつけ、自分のどこに問題があったのかを、ノートに書きとめていくクリス。
まあこの過程で、せっかくとりつけたインタビューの約束を寝過ごしてドタキャンしたりするなど、この人ほんとうに救いようがないんだけど、なんでか憎めないんだよなあ。どうしてだろう。たぶん、極限的にだらしないんだけど、偉そうじゃないからだと思う。というか不思議なのは、なんでこんなダメ男に次から次へと彼女ができるのかというお話で、またその元恋人たちが可愛いんだ。なぜだ? まあ、このクリスという人、顔立ちはけっこう二枚目なんですけどね。きったない格好してても、わりと様になって見えるタイプというか。そのせいで女性達は騙されたんだろうか?
まあしかし自虐露悪的に自分のことを描いていても、じめじめ感がまったくないんだよね。ある意味開き直っているというか、まあこれは芸風と割り切っているというか。
じっさいのところ、ドキュメンタリーと名打たれているわけだけど、これは半分作っているんだろうなあと思わせる部分は数々あった。というか、ある程度作ってないと、倫理的にまずい映画だと思う。元彼女への突撃インタビューとか、デートし始める女の子の観察日記とか、これ、相手の了承を前もって取ってないと本当に失礼きわまりないというか、名誉毀損とプライバシー侵害以外の何ものでもないからなあ。
あと、映画が終わった瞬間に、ひときわ大きな声で笑ってた後ろの座席の女性が一言、「これ、ぜんぶ男の幻想だね」と切って捨てたのが印象深かった。で、それも本当だなーと思った。面白いしゲラゲラ笑えるんだけど、それだけ。現実の人間関係の「何か」にバスンと響いてくるメッセージを映画として1個くらい持っててもよかったんじゃないかと思う。
あと途中で出てくるゲイネタがわたしはちょっと笑えませんでした。ヘテロセクシャルの界隈にいる若い人たちがゲイという存在をどういうふうにネタにしてるのかを直接示すという点では、まあ正直っちゃあ正直なのかもしれないけど、やっぱりそれで笑いをとろうとする姿勢は見ていて気分がよいものではない。
さて、そんなこんなで「よい彼氏」になるためのミッションをたどるクリスですが、彼ははたして自分の欠点を見つけることができるのか。そうしてそれを克服できるのか。約束にはいつも2時間遅れる、部屋が汚すぎる、頼りにならない、職がない。どれが彼の最たる問題なのか、あるいは何かほかのものが? 映画づくりを通じて学んだ事を手に、彼は最後にある女性に電話する。相手は、勃起不全を直すべくクリスがバイアグラを過剰摂取しておかしくなってた時に道で会った女性のひとりだ。
「あ、もしもし? ぼくクリス、こないだ道で後生だからぼくとセックスしてくれって話しかけた男。うん。……きみ、まだぼくに興味ある?」
さてこの電話の結果、彼は新しい恋を見つける事ができるのだろうか? いったいぜんたい、彼は少しでも成長というものを見せているのか? それは見てのお楽しみ。……いや、やっぱり日本公開はされないかなあ……いやでも、されなくても無理はない映画というか……いや面白かったんだけどね(どっちだ)
新聞かなんかのレビューで、「こんなのやってみようかなと誰しもが一度は考えた事があるような、しかし誰もが一度として本気でやろうとは思わなかった事を、クリス・ウェイトはやってのけた。セレブでもない見知らぬ他人のリアル恋愛事情という、世界でもっとも退屈なテーマをここまでの娯楽作に仕上げた手腕には脱帽」と書いてあった。褒めているのか馬鹿にしているのか、かなり微妙なレビュー。
上に自虐ギャグ自虐ギャグと書きましたが、とにかく凄いのが監督クリスのダメ男っぷり。しょっぱなからちょっとびっくりするくらい足の踏み場もない混沌の自室シーンから映画は始まり、元彼女にインタビューをすることを決めたはいいものの、元彼女の誰が誰だったかもきちんと思い出せず、自分の母親のところに相談に行って、母親が(なぜか)キープしていた彼宛のラブレターの束をチェックするようなていたらく。
つか本気で 最 低 この男
両手の指では到底数えきれないほどの元彼女たちには、ことごとくこっぴどいフラれ方をしており、たとえば「Dear Shit-fuck」で始まる手紙で別れを告げてきた女の子はいるわ、彼がいかに最低の恋人だったかを物語る自伝小説を出版されるわ、さんざん。いざ電話をかけてみても、次から次へと「ごめん、もう二度と顔を合わせたくないの」という返事のオンパレードで、最初のインタビューの予定すら立たない。たとえばこんなふう。
「もしもし」
「もしもし?」
「クリスだけど」
「……ああ……」
「久しぶり」
「そうね」
「元気だった?」
「まあね」
「ちょっと話したい事があるんだけど」
「うん」
「おれ、こないだ彼女に捨てられたんだよね」
「…………またぁ!?」
「うん」
「……」
「それでもってね」
「ああ……」
「おれも自分に悪いところがあるんだろうと思ってね」
「ん」
「元カノ全員にインタビューしてさ」
「……」
「映画にしようと思ってんだよね」
「……」
「で、協力してくれるかなあと思って」
「(ブツッ ツー ツー ツー ツー ツー ツー)」
まあこんな感じで難儀しつつも、おそろしく寛容な母親の協力もあって(母親……)、なんとか数人のインタビューにこぎつけ、自分のどこに問題があったのかを、ノートに書きとめていくクリス。
まあこの過程で、せっかくとりつけたインタビューの約束を寝過ごしてドタキャンしたりするなど、この人ほんとうに救いようがないんだけど、なんでか憎めないんだよなあ。どうしてだろう。たぶん、極限的にだらしないんだけど、偉そうじゃないからだと思う。というか不思議なのは、なんでこんなダメ男に次から次へと彼女ができるのかというお話で、またその元恋人たちが可愛いんだ。なぜだ? まあ、このクリスという人、顔立ちはけっこう二枚目なんですけどね。きったない格好してても、わりと様になって見えるタイプというか。そのせいで女性達は騙されたんだろうか?
まあしかし自虐露悪的に自分のことを描いていても、じめじめ感がまったくないんだよね。ある意味開き直っているというか、まあこれは芸風と割り切っているというか。
じっさいのところ、ドキュメンタリーと名打たれているわけだけど、これは半分作っているんだろうなあと思わせる部分は数々あった。というか、ある程度作ってないと、倫理的にまずい映画だと思う。元彼女への突撃インタビューとか、デートし始める女の子の観察日記とか、これ、相手の了承を前もって取ってないと本当に失礼きわまりないというか、名誉毀損とプライバシー侵害以外の何ものでもないからなあ。
あと、映画が終わった瞬間に、ひときわ大きな声で笑ってた後ろの座席の女性が一言、「これ、ぜんぶ男の幻想だね」と切って捨てたのが印象深かった。で、それも本当だなーと思った。面白いしゲラゲラ笑えるんだけど、それだけ。現実の人間関係の「何か」にバスンと響いてくるメッセージを映画として1個くらい持っててもよかったんじゃないかと思う。
あと途中で出てくるゲイネタがわたしはちょっと笑えませんでした。ヘテロセクシャルの界隈にいる若い人たちがゲイという存在をどういうふうにネタにしてるのかを直接示すという点では、まあ正直っちゃあ正直なのかもしれないけど、やっぱりそれで笑いをとろうとする姿勢は見ていて気分がよいものではない。
さて、そんなこんなで「よい彼氏」になるためのミッションをたどるクリスですが、彼ははたして自分の欠点を見つけることができるのか。そうしてそれを克服できるのか。約束にはいつも2時間遅れる、部屋が汚すぎる、頼りにならない、職がない。どれが彼の最たる問題なのか、あるいは何かほかのものが? 映画づくりを通じて学んだ事を手に、彼は最後にある女性に電話する。相手は、勃起不全を直すべくクリスがバイアグラを過剰摂取しておかしくなってた時に道で会った女性のひとりだ。
「あ、もしもし? ぼくクリス、こないだ道で後生だからぼくとセックスしてくれって話しかけた男。うん。……きみ、まだぼくに興味ある?」
さてこの電話の結果、彼は新しい恋を見つける事ができるのだろうか? いったいぜんたい、彼は少しでも成長というものを見せているのか? それは見てのお楽しみ。……いや、やっぱり日本公開はされないかなあ……いやでも、されなくても無理はない映画というか……いや面白かったんだけどね(どっちだ)
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時折超つたない英語を喋りますが修行中なのでどうかお許しください。
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Please excuse my poor English -- I am still under training
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