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本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
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Posted by まめやもり - mameyamori - 2007.10.14,Sun




パパ可愛すぎ



の、一言に尽きます。いや、息子たちもまわりの登場人物もみんな可愛かったけどね。

 院生部屋でいっしょの友達と雑談してて突如はじまった「院生部屋でDVDを見よう」企画の第二回目。その友達のさらに友達で、ブラジル出身でUKにすでに7年住んでいる、という人が、「ブラジルのいー映画があるよ」といって持ってきてくれたDVD。その名も "2 Filhos de Francisco" (『フランシスコの二人の息子』)です。

 2005年ブラジル発のこの映画、ブラジルのカントリー・シンガー・ユニットであるゼゼ・ヂ・カマルゴ&ルシアーノの生い立ちを映画化したものらしい。公開当時はブラジル国内で記録的ヒットをとばしたと日本語のオフィシャルウェブサイトに書いてあった(ぜんぜん知らんかったけど日本では今年の3月に公開されてんですね)。









 フランシスコはブラジルの農村に住む貧しい農夫。妻ヘレナの父から借りた土地でほそぼそと農作業をして暮らす毎日のなか、彼のたった一つの楽しみは、音楽。フランシスコの夢は、9人の子供たちの中からスター・ミュージシャンを出すことだ。
 貧しい暮らしの中からなけなしの穀物をひねりだし、家畜ともども売っ払い、自分の父親から譲り受けた銃まで売り払って、息子のミロズマルにアコーディオンを買ってあげるフランシスコ。ミロズマルは人一倍の音痴で、前途は多難に見えたが、本業である農業もほっぽりだして奔走するフランシスコの忍耐と努力が実り、しだいに息子は音楽の才能を開花させていく。
 だがそんな折、妻ヘレナの父がフランシスコの音楽狂いにとうとう堪忍袋の緒を切らし、一家は土地を追い出されてしまう。彼らが移り住んだのは都市のスラムの小さく汚い家。腹をすかせて泣く赤子を腕に抱き、つらい生活に声をひそめて泣くヘレナ。そんな母親の後姿を見たミロズマルは、アコーディオンを抱え、弟エミヴァルを連れて街に出る。その歌声で金を稼いで、母親を楽にさせてやりたいと願ったのだ‥‥

 あらすじはこんな風。このとおり、のびのびとした夢と愛情にあふれたお話でありました。登場人物はみんな、ぎこちなくて少しだけ愚かしい、だけど愛すべきまっすぐさに満ちていて、その表情がとてもいい。村の集会で、人一倍音痴な歌声をはりあげて一生懸命歌ってみせるミロズマル、その後で「ぼく、どうだった?」と期待いっぱいに父親フランシスコに向ける瞳、息子の楽才のなさに大人げなく不機嫌になるフランシスコ、それを見てがっかり俯くミロズマルを抱きしめるお母さんヘレナの化粧っ気がないけれども素朴な美しさ。シンガーとしてそこそこ売れ出したミロズマルとそのガールフレンドが初めてキスをする時の、どうしようもないぎこちなさ。レコードが売れずに落ち込む息子を見て、なんとかそのシングルをヒットチャートに乗せてやろうと、公衆電話からひたすらラジオ会社にリクエストを送るフランシスコ。
そういう一つ一つの場面がいちいち可愛らしい。

 その一方で、暗さや悲しみの描き込みが薄かったかなという気はちょっとする。もちろん貧しさとか、ミュージシャンの直面する大変さとかが無視されるわけではなく、家族は話の中で幾度もひどい挫折や悲劇を味わうんだけど、その描き方がちょっとあっさりしすぎている印象。その後のハッピーな愛情で、辛いことはみんな乗り越えられてしまうかのような。だけど、あんな境遇と経験にあれば、みんなもっと影をひきずってもおかしくないというか、歪んでもおかしくないというか、消えない溝が人物の深い部分に刻み込まれてもおかしくないはずだというか、なんかそんな感想がありました。
 あと、出てくる人みんないい人すぎっていうか‥‥息子二人のマネージャーとか、途中から本当にいい人になっちゃうんだけど、金儲けで人生何十年も生きてきた人間があんな風になるもんなのか。

 まあそんなわけで、「こんなうまくいかねえよ」というくだりもたくさんあるんだけど、まあそういうマイナスポイントを補ってあまりあるくらい、のびのびとした魅力に満ちあふれています。
 演出も演技も人物の描き方も、少し稚拙かなと思うほどに無骨な演出だったけれども、美しい風景映像とあいまって、その稚拙さ・無骨さが「愛すべき」映画としての完成度に寄与しているように思った。熱い太陽と乾燥した土が織りなす青と黄と緑の農村風景はとても色鮮やかで、掘っ立て小屋みたいな一家の家すら美しく見える。

 カントリーミュージックはもともとそれほど好きでもないんだけど、この映画では子供二人の歌声の素朴なハーモニーがなかなか良くて、楽しんで見ることが出来ました。

 ガツンと来る衝撃とか、わけもわからない感動とか、吐きけすらともなうインパクトとか、そういう濃いい映画体験は起こさない作品だったけれども、素朴であったかいものを見たいときにはオススメの佳作かなあ、と思います。
 どうでもいいけど、シネマスクランブルの紹介ページの「一見、『本当にスターですか?』と確認したくなるような、どこにでもいそうな平凡な小太り中年デュオ」という文章に笑った。映画中に本人たち出てくるんだけど、確かにそんな感じだったわ。


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