本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
Posted by まめやもり - mameyamori - 2006.07.19,Wed
見てきた。(一週間くらい前だけど)
レビューはコチラ。「歴史的ロマンチシズムの陥穽、リアリズムの力」(9.Aug.2006)
近くの映画館で平日の夜8時ごろからの上映で見たのだけど、座席はほぼ満杯。すごく小さいシアターなので元々人はそれほど入らないんだけど、それにしても今まで何度かここ来ててこんなのは初めてだ。やはりカンヌの受賞と、「anti-British!!」とかなんとかメディアがやいやい言ったことで、かなりの集客になっている様子。(まあわたしもそれで集客されたクチでもあるが)しかしただ話題性だけが先走った映画ではなかったことは、上映終了後、客の半分近くがテロップをずうっと眺めていたことからもうかがえるかもしれない。わたしの知る限り、これイギリスでのほうが珍しい現象であるように思う。(ほとんどの人はシアターがまだ暗い内からさっさとどっか行ってしまう)
しかし内容に関してはコメントが難しいのだ。少し留保する。(一週間経ってるのに!)
今日はとりあえずのところ、UKでの受け止められ方の一端を紹介するにとどめよう。
英国の監督ケン・ローチKen Loachが今年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞したこの映画The Wind That Shakes the Barleyは、1920年代アイルランドにおける対英独立闘争およびその後の独立派の内戦を描いたもの。医学生のデミアンはある日、アイルランド独立運動の鎮圧のために送り込まれている英国軍部隊(Black and Tans)の暴虐ぶりを目にして、兄テディがリーダーを務める地元の独立軍の一員となることを決める。ゲリラ戦をしぶとく展開していく独立軍であったが、ある日英国がアイルランドの独立を認めたというニュースが入る。しかし喜びもつかの間、その大きな条件付の「独立」を認めるかどうかをめぐって独立派の間に亀裂が入り・・・というお話。
こんな内容なので英国では物議を醸している。以下あんまり一語一句きちんと訳してないがお許し願います。
------Daily Mailの記事
彼(ケン・ローチ監督)のねらいは、1920-1922年のアイルランドと今日のイラクを直接対比させることにある。もちろんこのためには、英国人をサディストとして描き、アイルランド人をロマンチックで理想主義的なレジスタンスの闘士として描かなければならない。自己の尊厳を守るために他に手段がないゆえに仕方なく暴力の道を選ぶ闘士として、である。(略)
もちろん、彼の芸術的才能や、想像力、熱意、ユーモアなどの才能に疑いはない。だがローチは過去にあまりに(社会主義的な思想に)のめりこんでしまったため、古ぼけたプロパガンダ映画以外の作品を作れなくなってしまったようだ。(略)
大英帝国は不完全なものではあったが、しかし同時にその占領下の国に多くの有益なものをもたらした。加えて、すべては遙か昔に起こったことであり、それについて何者も謝罪を強いられるものではない。(5月30日)
この最後のパラグラフ、どこぞの国の保守派の言ってることとそっくりで笑えますね。全体的に英国の保守派は日本の保守派よりマイルドかつ狡猾で嫌味なほど皮肉っぽい——最後のは右派左派かぎらず言えることだが——印象があるのだが、こういう問題について下敷きにするベーシックな論理はわりと一定らしい。
ちなみにこの映画のUK公開は6月23日だった。つまりこの記事はUK公開のはるか以前に書かれている。このほかにもDaily Telegraphとかにもカンヌ受賞結果発表直後に「自国嫌いのマルキスト」とか言ってる記事がババババーと載った。これらの記事の文責者がカンヌに出向いて直接映画を見た可能性も無いわけではないが、ほとんど映画自体の内容に触れずに監督その人をあてこすっていることから、映画を見ないままに批判している可能性大。これはちょっと呆れた。
情報に寄ればTimesもなんか酷いあてこすりを書いたらしいのだが(きちんと確認してない)、映画公開後の正式レビューは意外にも5つ星満点中4つ星だった(コチラ)。いわく、「ローチは危機的状況の混沌とした様子を、批判的な距離をとりつつ切り取っている。英雄のクローズアップはここにはない。デミアンは興奮してぶるぶると震え、声からはそのパニックがうかがい取れる。(中略)なぜコークの労働者の小さなグループが武器をとり反逆のレパブリカン(注:アイルランド独立派)の運動に加わっていったのかを、物語は克明に描き出す。」まあこう褒めつつも、「ローチの階級的・文化的な不公正に対する関心は揺らぐことがない。だが不幸なことに何年もまったく同じ映画を作り続けている印象は否めない」と皮肉ってますが。
それに対し、左派の代表紙Guardianの評は意外と手厳しい。5つ星中3つ星(コチラ)。「パワフルなドラマ」「怒りと苦痛の物語だが、それと並行してローチ独特の優しくも朴訥なユーモアが各所に光っている」とか褒めてはいるが、ローチが現在の米英主導のイラク侵攻に重ねてこの映画を撮った(と自分で言っている)ことを批判する。「『麦の穂を揺らす風』は今日のアイルランドがEUの裕福な一国であり、その政府が英国同様熱狂的にイラク戦争を支持したことに目を向けていない」。また別な記事では、「イラク戦争がいかにまちがっていたかをアピールするためになぜアイルランドを題材にするのか。それぞれの国にはそれぞれの背景がある。イラクの歴史をわれわれがもっと知っていれば、あんな馬鹿げた占領は無かったのだ」と論ずる。
そんでもって、「UK」というからにはイングランドのだけでなく北アイルランド紙のレビューも見てみるか!(UKはThe United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandの略称)と思ってBelfast Telegraphという地方紙のサイトに行ってみたところ、7月11日のレビューがすでにお金が必要だった。ので、見なかった。(情けない)たまにあるんだよねこういうところ・・・
そういえばOpen Democracyとかもわりと酷評していたなあ。うーん、そうかもしれない、難しいなあ。良い部分のたくさんある映画ではあったんだが・・・というのがわたしの感想。
そんなわけで、もう少し詳しいわたし自身の感想は数日中に書こう。いや多分。
ちなみに邦題は直訳の『大麦の穂を揺らす風』があんまピンと来ない感じなので『風立ちぬ』となっていたりするようですね。でもこれ堀辰雄をケンローチが映画化したとか勘違いする人いないのかしら(いないよ)
レビューはコチラ。「歴史的ロマンチシズムの陥穽、リアリズムの力」(9.Aug.2006)
近くの映画館で平日の夜8時ごろからの上映で見たのだけど、座席はほぼ満杯。すごく小さいシアターなので元々人はそれほど入らないんだけど、それにしても今まで何度かここ来ててこんなのは初めてだ。やはりカンヌの受賞と、「anti-British!!」とかなんとかメディアがやいやい言ったことで、かなりの集客になっている様子。(まあわたしもそれで集客されたクチでもあるが)しかしただ話題性だけが先走った映画ではなかったことは、上映終了後、客の半分近くがテロップをずうっと眺めていたことからもうかがえるかもしれない。わたしの知る限り、これイギリスでのほうが珍しい現象であるように思う。(ほとんどの人はシアターがまだ暗い内からさっさとどっか行ってしまう)
しかし内容に関してはコメントが難しいのだ。少し留保する。(一週間経ってるのに!)
今日はとりあえずのところ、UKでの受け止められ方の一端を紹介するにとどめよう。
英国の監督ケン・ローチKen Loachが今年のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞したこの映画The Wind That Shakes the Barleyは、1920年代アイルランドにおける対英独立闘争およびその後の独立派の内戦を描いたもの。医学生のデミアンはある日、アイルランド独立運動の鎮圧のために送り込まれている英国軍部隊(Black and Tans)の暴虐ぶりを目にして、兄テディがリーダーを務める地元の独立軍の一員となることを決める。ゲリラ戦をしぶとく展開していく独立軍であったが、ある日英国がアイルランドの独立を認めたというニュースが入る。しかし喜びもつかの間、その大きな条件付の「独立」を認めるかどうかをめぐって独立派の間に亀裂が入り・・・というお話。
こんな内容なので英国では物議を醸している。以下あんまり一語一句きちんと訳してないがお許し願います。
------Daily Mailの記事
彼(ケン・ローチ監督)のねらいは、1920-1922年のアイルランドと今日のイラクを直接対比させることにある。もちろんこのためには、英国人をサディストとして描き、アイルランド人をロマンチックで理想主義的なレジスタンスの闘士として描かなければならない。自己の尊厳を守るために他に手段がないゆえに仕方なく暴力の道を選ぶ闘士として、である。(略)
もちろん、彼の芸術的才能や、想像力、熱意、ユーモアなどの才能に疑いはない。だがローチは過去にあまりに(社会主義的な思想に)のめりこんでしまったため、古ぼけたプロパガンダ映画以外の作品を作れなくなってしまったようだ。(略)
大英帝国は不完全なものではあったが、しかし同時にその占領下の国に多くの有益なものをもたらした。加えて、すべては遙か昔に起こったことであり、それについて何者も謝罪を強いられるものではない。(5月30日)
この最後のパラグラフ、どこぞの国の保守派の言ってることとそっくりで笑えますね。全体的に英国の保守派は日本の保守派よりマイルドかつ狡猾で嫌味なほど皮肉っぽい——最後のは右派左派かぎらず言えることだが——印象があるのだが、こういう問題について下敷きにするベーシックな論理はわりと一定らしい。
ちなみにこの映画のUK公開は6月23日だった。つまりこの記事はUK公開のはるか以前に書かれている。このほかにもDaily Telegraphとかにもカンヌ受賞結果発表直後に「自国嫌いのマルキスト」とか言ってる記事がババババーと載った。これらの記事の文責者がカンヌに出向いて直接映画を見た可能性も無いわけではないが、ほとんど映画自体の内容に触れずに監督その人をあてこすっていることから、映画を見ないままに批判している可能性大。これはちょっと呆れた。
情報に寄ればTimesもなんか酷いあてこすりを書いたらしいのだが(きちんと確認してない)、映画公開後の正式レビューは意外にも5つ星満点中4つ星だった(コチラ)。いわく、「ローチは危機的状況の混沌とした様子を、批判的な距離をとりつつ切り取っている。英雄のクローズアップはここにはない。デミアンは興奮してぶるぶると震え、声からはそのパニックがうかがい取れる。(中略)なぜコークの労働者の小さなグループが武器をとり反逆のレパブリカン(注:アイルランド独立派)の運動に加わっていったのかを、物語は克明に描き出す。」まあこう褒めつつも、「ローチの階級的・文化的な不公正に対する関心は揺らぐことがない。だが不幸なことに何年もまったく同じ映画を作り続けている印象は否めない」と皮肉ってますが。
それに対し、左派の代表紙Guardianの評は意外と手厳しい。5つ星中3つ星(コチラ)。「パワフルなドラマ」「怒りと苦痛の物語だが、それと並行してローチ独特の優しくも朴訥なユーモアが各所に光っている」とか褒めてはいるが、ローチが現在の米英主導のイラク侵攻に重ねてこの映画を撮った(と自分で言っている)ことを批判する。「『麦の穂を揺らす風』は今日のアイルランドがEUの裕福な一国であり、その政府が英国同様熱狂的にイラク戦争を支持したことに目を向けていない」。また別な記事では、「イラク戦争がいかにまちがっていたかをアピールするためになぜアイルランドを題材にするのか。それぞれの国にはそれぞれの背景がある。イラクの歴史をわれわれがもっと知っていれば、あんな馬鹿げた占領は無かったのだ」と論ずる。
そんでもって、「UK」というからにはイングランドのだけでなく北アイルランド紙のレビューも見てみるか!(UKはThe United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandの略称)と思ってBelfast Telegraphという地方紙のサイトに行ってみたところ、7月11日のレビューがすでにお金が必要だった。ので、見なかった。(情けない)たまにあるんだよねこういうところ・・・
そういえばOpen Democracyとかもわりと酷評していたなあ。うーん、そうかもしれない、難しいなあ。良い部分のたくさんある映画ではあったんだが・・・というのがわたしの感想。
そんなわけで、もう少し詳しいわたし自身の感想は数日中に書こう。いや多分。
ちなみに邦題は直訳の『大麦の穂を揺らす風』があんまピンと来ない感じなので『風立ちぬ』となっていたりするようですね。でもこれ堀辰雄をケンローチが映画化したとか勘違いする人いないのかしら(いないよ)
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時折超つたない英語を喋りますが修行中なのでどうかお許しください。
A tiny lazy gecko (=yamori) always mumbling something
Please excuse my poor English -- I am still under training
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