本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
Posted by まめやもり - mameyamori - 2008.01.19,Sat
2007年のカンヌでグランプリを取ったという、ルーマニア映画の『四ヶ月と三週間、そして二日間』(原題は”4 luni 3 saptamani si 2 zile”)を見てきましたよ。
この映画、『タイムズ』と『ガーディアン』の映画レビューがそろって最高評価の五つ星をつけたというんで、イギリスではちょっとした話題をふりまいています。両方ともめったに五つ星つけないらしい。たしかにガーディアンの映画レビューはたまに見てるけど、五つ星なんていままで一回も目にしたことなかったわ。
冷戦構造の崩壊より2年前の1987年のルーマニアを舞台に、法律で禁じられた人口妊娠中絶を違法に行おうとする若い女学生二人を描いたこのお話、確かにきわめて質の高いパワフルな出来だった。
個人的には、映画が終わった後「この映画が全国紙の映画レビューで五つ星を取るのかあ」と、ちょっと驚きではあったのだけれども、それは作品の質にマイナスポイントがあったからというよりは、そのリアリズムのあまりの妥協のなさゆえ。物語としての娯楽性を高めるとか、聴衆を楽しませるお遊びの挿入とか、なにかストンと落ちたりぱあっと視界が開けたりする結末をつける、とか、そういうことをストイックなまでにやっていないのね。人によっては退屈だとか、いやどちらかというと「しんどい」かな、そう感じる人もいるかもしれない。起伏に乏しいわけではないんだけど、ある意味でかなりの忍耐力を要求される映画。
ちなみに、『タイムズ』のレビューの冒頭は「社会的リアリズムと政治的な訴えかけ、思わず歯がみしてしまうような緊張感とが、渾然一体と絡み合った並ぶものなき傑作」となっています。まさに手放しのベタ褒め(汗)
タイムズの「Have your say」(読者がそれぞれの記事にコメントをつける欄)には、ルーマニアの18才の女性のコメントがあって、そこには「1989年以前のルーマニアを知らない私にはとても遠いお話のように感じられるけれど、現在の私たちがどれだけまともな社会に生きているのかということを実感させてくれる。誰もが見るべき映画です」というコメントがあって、興味深い。この映画がわれわれにつきつけてくるものが、本当に「おっかない全体主義的共産主義体制」の産物にすぎないかどうかはしっかり検討しなくちゃならないと思うが(たぶん違うからね)、このコメントで興味深いのはそこじゃなくて、それだけの時代の隔絶感が、いまのルーマニアの若年層にあるんだなあということ。「世代」という概念が、一定の歴史的条件のもとにあってはじめて、きわめて重要な意味をもってくるんだということがよくわかる。いまの日本の80年代世代とか90年代世代とか、そういう世代差とは圧倒的に規模が違う、底知れない断絶。その断絶のあちらとこちらで顔をつきあわせ、さして変わりなく思える日常を隣り合ってすごしながら、人々がそこで生きているんだなあ、と。それってすごいことだよなあ。日本において「戦後世代」というものが持った意味も、かつてはそういうものだったんだろう。
いずれにせよ、冷戦構造時代の東欧社会の経験や、そこではぐくまれたさまざまな思想や文化は、その斬新さや衝撃性を失うというよりも、東西の壁崩壊20年を経た今になってようやくその内実をあらわにしはじめている気がする。——少なくとも旧「西側」諸国においてはまちがいなく。
しっかし関係ないが、ルーマニアの人はふつうに英語が上手だね。この18才の人もすごく自然な英語を書いてらっしゃる。いや、うちの学部にもルーマニアの人が一人いるんだけど、彼女も英語上手なんだよこれが・・・レポートとか論文とかは英語のほうがルーマニア語より書きやすい、とか言ってたよ。うえースゲエ。
ちなみにこの映画、邦題では「四ヶ月三週二日間」となっているのもあるようだけど、これは訳のまちがいではないかな?「四ヶ月と三週」と「二日間」は、厳密には別のものをさしていると思うのですが。日本でもこの春公開されるということですが、ちゃんと訳されるといいのだが……って、プロが訳すんだから大丈夫か。
時間があればぜひレビューを書きたいと思います。ここ二月ほどのあいだに見た映画は、マイケル・ムーアの『シッコ』とか、ヴェルナー・ヘルツォークの怪作『レスキュー・ドーンRescue Dawn』とか、かなりイイ作品が多いんですが、ちゃんとレビュー書けてないなあ。この『4,3,2』含め、ぜひ思ったことを書き留めておきたい映画ばかりです。
この映画、『タイムズ』と『ガーディアン』の映画レビューがそろって最高評価の五つ星をつけたというんで、イギリスではちょっとした話題をふりまいています。両方ともめったに五つ星つけないらしい。たしかにガーディアンの映画レビューはたまに見てるけど、五つ星なんていままで一回も目にしたことなかったわ。
冷戦構造の崩壊より2年前の1987年のルーマニアを舞台に、法律で禁じられた人口妊娠中絶を違法に行おうとする若い女学生二人を描いたこのお話、確かにきわめて質の高いパワフルな出来だった。
個人的には、映画が終わった後「この映画が全国紙の映画レビューで五つ星を取るのかあ」と、ちょっと驚きではあったのだけれども、それは作品の質にマイナスポイントがあったからというよりは、そのリアリズムのあまりの妥協のなさゆえ。物語としての娯楽性を高めるとか、聴衆を楽しませるお遊びの挿入とか、なにかストンと落ちたりぱあっと視界が開けたりする結末をつける、とか、そういうことをストイックなまでにやっていないのね。人によっては退屈だとか、いやどちらかというと「しんどい」かな、そう感じる人もいるかもしれない。起伏に乏しいわけではないんだけど、ある意味でかなりの忍耐力を要求される映画。
ちなみに、『タイムズ』のレビューの冒頭は「社会的リアリズムと政治的な訴えかけ、思わず歯がみしてしまうような緊張感とが、渾然一体と絡み合った並ぶものなき傑作」となっています。まさに手放しのベタ褒め(汗)
タイムズの「Have your say」(読者がそれぞれの記事にコメントをつける欄)には、ルーマニアの18才の女性のコメントがあって、そこには「1989年以前のルーマニアを知らない私にはとても遠いお話のように感じられるけれど、現在の私たちがどれだけまともな社会に生きているのかということを実感させてくれる。誰もが見るべき映画です」というコメントがあって、興味深い。この映画がわれわれにつきつけてくるものが、本当に「おっかない全体主義的共産主義体制」の産物にすぎないかどうかはしっかり検討しなくちゃならないと思うが(たぶん違うからね)、このコメントで興味深いのはそこじゃなくて、それだけの時代の隔絶感が、いまのルーマニアの若年層にあるんだなあということ。「世代」という概念が、一定の歴史的条件のもとにあってはじめて、きわめて重要な意味をもってくるんだということがよくわかる。いまの日本の80年代世代とか90年代世代とか、そういう世代差とは圧倒的に規模が違う、底知れない断絶。その断絶のあちらとこちらで顔をつきあわせ、さして変わりなく思える日常を隣り合ってすごしながら、人々がそこで生きているんだなあ、と。それってすごいことだよなあ。日本において「戦後世代」というものが持った意味も、かつてはそういうものだったんだろう。
いずれにせよ、冷戦構造時代の東欧社会の経験や、そこではぐくまれたさまざまな思想や文化は、その斬新さや衝撃性を失うというよりも、東西の壁崩壊20年を経た今になってようやくその内実をあらわにしはじめている気がする。——少なくとも旧「西側」諸国においてはまちがいなく。
しっかし関係ないが、ルーマニアの人はふつうに英語が上手だね。この18才の人もすごく自然な英語を書いてらっしゃる。いや、うちの学部にもルーマニアの人が一人いるんだけど、彼女も英語上手なんだよこれが・・・レポートとか論文とかは英語のほうがルーマニア語より書きやすい、とか言ってたよ。うえースゲエ。
ちなみにこの映画、邦題では「四ヶ月三週二日間」となっているのもあるようだけど、これは訳のまちがいではないかな?「四ヶ月と三週」と「二日間」は、厳密には別のものをさしていると思うのですが。日本でもこの春公開されるということですが、ちゃんと訳されるといいのだが……って、プロが訳すんだから大丈夫か。
時間があればぜひレビューを書きたいと思います。ここ二月ほどのあいだに見た映画は、マイケル・ムーアの『シッコ』とか、ヴェルナー・ヘルツォークの怪作『レスキュー・ドーンRescue Dawn』とか、かなりイイ作品が多いんですが、ちゃんとレビュー書けてないなあ。この『4,3,2』含め、ぜひ思ったことを書き留めておきたい映画ばかりです。
レビューはこちら(長文)。2007.02.19
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時折超つたない英語を喋りますが修行中なのでどうかお許しください。
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Please excuse my poor English -- I am still under training
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