本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
Posted by まめやもり - mameyamori - 2008.04.05,Sat
機会あって次のような本をひさしぶりに読みかえした
収録作品は「魔法屋敷」「一千年后の世界」「メトロポリス」の三作なのだが、とくにこの「魔法屋敷」の台詞がいちいち隔世の感を呼び起こす。
手塚治虫の科学感というと、少年らしい夢いっぱいのユートピア科学ロマンと、傲慢な科学主義への警鐘(科学万能主義の悪人が大破壊のきっかけをつくる、人類vs科学機械(ロボット)のたたかいを描く)などが同居しているというイメージがあって、まあ時代の流れと同時にしだいに前者の影が薄く、後者の影が濃くなっていき、人の業や自然主義的ヒューマニズムを描く後期作品(後期「火の鳥」とか「ブッダ」とか「ブラックジャック」とか)へと移行していくのかな、というイメージを漠然と持っている。いやもちろん、科学・自然だけが手塚のテーマの軸ではないし(ホラーや「アドルフに告ぐ」系の歴史モノはそれぞれ別のテーマ軸だし、西部劇や冒険モノも大枠はかぶれど厳密には主題は別だ)、これが乱暴かつ表面的な理解ではあることはわかっているんだけど、主要作品を拾い読みしたかぎりでは、そういう軌跡を描ける気がする。まあ、時代の流れを反映しているんだろうなあ、という感じだけれども。
そんでもって、1947年作のこの「魔法屋敷」はもうふんごいまでに前者のみの作品。つまり激烈に科学ドリーム突っ切ってる感じ。なんかすごい台詞のオンパレードなので思わずエントリにしてしまったわけだ。
100年の地獄旅行から帰ってきた大魔王が、人間社会で魔法の力が衰退し科学が全盛となっているのを見て憤慨し、科学者に対し戦争を挑むのだが、それに対して主人公の科学少年・科学少女とそのおじの科学者や火星人科学者が応戦する……というのがこの「魔法屋敷」のあらすじだ。いやこの、「科学の偉大な力で悪い魔法をやっつけろ!ウワー科学ってすごいなあ!」という発想そのものが、いまの時代ではちょっとありえないよなあ。そういう時代だったんだなあ。つーか現代の感覚だと、主人公ってふつー「そうだ こんなときに 科学する心が 大せつだわ」とか言わないから。普通そういうふうにダイレクトに出てくるもんじゃなくて、批評家が「これは発展史観的な科学全能主義のメタファーですね」(眼鏡あげた)とか言って嘘くさく語んなきゃなんないもんだから。そこまで行くと、むしろ何かを意図的にパロってるかのように見えるんだが。
「おお なんとけなげな科学者たちでしょう [中略]
魔法なんてつまらないわ あたしも科学者の味方になろう」(魔王の妹ヒドラ)
科学少女(自動車に乗りつつ)「どう この はやさ」
きつね「すごい まったくすごいや」
たぬき「魔法なんか とてもおっつきませんよ」
科学礼賛のアンチテーゼとして出てきた科学批判さえも、映画や漫画なんかにおいてすでに80年代90年代に出尽くした感のある今となっては、これこれの台詞はまあ、何アホ言ってんじゃという感じなのだが、なんか笑ってしまう。いい時代だったんだなあ、という気がする。高度経済成長の弊害も公害も出てくる前の、科学がすばらしい奇跡だった牧歌的な時代。
さて、トリケラトプスの化石にまぼろしをかぶせた怪物だの、ひとを鍾乳石にして血を吸う吸血鬼だのを「科学のちから」でいちいち粉砕した科学少女と科学少年(と火星人)をまえに、悪魔はついに逃げだし、珍妙なかたちをした飛行機に打ち落とされるという最後を遂げるのだが、そういう最後だの諸々だのをへて最後にケン一が閉める台詞
「おばけや魔物はただ人間の心の中の夢として
いつまでも残しておきたいものだ
夢を忘れた人間はそれこそ
機械文明のコチコチな頭に
なってしまうと思う」
嘘くせえ!!
このあまりにも取って付けたような台詞。
この後に収録されている「メトロポリス」は、貪欲な権力欲と太陽までをも支配する科学力が結びついた結果、ひとつの無垢な人工生命が過酷な運命を強いられるとかいう内容なので(最初と最後にまったく同じ場面と台詞「いつかは人間も その発達しすぎた科学のために かえって自分を滅ぼしてしまうのではないだろうか?」が付されている)、二作品のあまりの格差が面白い。描かれた時期がけっこう離れているのかと思いきや、「魔法屋敷」が1948年、「メトロポリス」が1949年で、1年しか違わないでやんの。手塚さんの思想の変化というよりは、お子様向けに科学ドリームを与えておいて、大人向けにはちょっと引き締めたとかいう、狙った読者層の差なのかなあ。いや、「メトロポリス」面白いけどね。よくできていると本気で思うんだけど。
と、一応褒めつつも、まったく核心的でない部分についてコメント。「メトロポリス」にすごいキャラが登場しているんだこれが。読みかえして発見した。すっかり忘れてた。
「ウウーッ これは 学名を ミキマウス・ウォルトディズニーニという 動物ですぞ」「わかりやすくいえば ネズミです」
「ここにもネズミが死んでるぞ」
「なんだかブクブクしていやなネズこうだなあ」
「いつものあなへ ほうりこんでしまえ」
「こいつブタネズミだ」
大量廃棄可能なザコ敵としての扱いにとどまらず、この侮辱のされよう。この動物の発見者と思われる生物学者ウォルトディズニーニも冥界で泣いていようというものだ。(曖昧な記憶に寄ればえてして学名には発見者の名前をラテン語風にアレンジしたものがつけられうんじゃなかったっけ。)当時は著作権がうんぬんとか、まだゆるーい時代だったのかなあ。やっぱいい時代だったんだなあ・・・(しみじみ)
まあ、ふつうに考えれば、デズニーと手塚さんは取ったり取られたりの繰り返しだから、デズニー側もとくべつに大目に見てるという状況なんだろうとは思うが・・・それにしても、こう、古き良き時代の香りを感じるわけです。
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