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本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
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Posted by まめやもり - mameyamori - 2006.07.03,Mon





Believe me, I know when I say like that it doesn't sound funny. In the movie, it's really really charming [...] What is about, it's about the enthusiasm... its about people really wanting to be part of the game [...] a part of that sort of national event.[...]
I've never got it (any interest in football)... I've never got that kind of national enthusiasm. I've never got why people get so excited. Watching Offside, I actually felt that I understood, at least a bit more, what that's about.




 昨日のイングランドの敗退に意気消沈している友人と一緒に見にいきました。Offside。
今年のベルリン映画祭で銀熊賞をとった作品です。

 上に長々と引用したのはBBCの映画批評家Mark KermodeがBBCラジオでベタ褒めしてたレビューの抜粋。近くの映画館が出してるこの映画のフライヤーには、監督のJafar Panahi(日本語表記はジャファルとかジャファールとか色々)はアッバス・キアロスタミAbbas Kiarostamiと並んで現代のイラン映画を代表する監督だと書いてあったが、正直言うとほぼ初めて耳にした名前だった。キアロスタミは『友達の家はどこ?』とか(眠かったけど)好きでしたが。そんでもあまりにマークが褒めてたので、なんとなく気になって見てみることにした。


 この映画、上にもあるように、イランのワールドカップ進出を決める試合会場になんとかして潜り込もうとする女性たちのお話です。知っての通り1979年の革命以降、イランではイスラム教道徳を反映した法体系が敷かれ、女の行動の自由が著しく制限されたわけだが、その経緯で「国民的スポーツ」であるサッカーという場所からも女は排除されるようになった。理由は、サッカーが暴力的でマスキュリンであるため女性にふさわしくないから、ということらしい(女性チームみたいのはあるらしいが)。つまりナショナルな試合では、男しか競技場でサッカー観戦ができないのだ。

 そうした事情を背景にしたこの映画。大のサッカーファンの少女たちが、男の格好をしたり、体中にイラン国旗をまとったり、すごいのになると兵士(映画の感じを見るにイランでは兵士は全員男なんだろう)の格好をして警備兵の目をかいくぐり、なんとかしてエポックメイキングな試合を見ようとする。だけど競技場に潜入する前に捕まって、試合の間中競技場のすぐ外で監視下に置かれることになる。そんな彼女らと数人の警備兵とのやりとりが、試合終了まで描かれていく。


 ただそんだけの映画だけど、いやあ本当にチャーミングな佳作でありました。だけどこの映画見て「ほおらイスラム社会は抑圧的で駄目でしょ」みたいなことを、だから軍事的に警戒されて仕方ないみたいなことを暗に匂わせてシタリ顔で言う人がいたら、わたし殴るよ。殴りたい。ともすればそういう風に一言でまとめられそうなこの世界状況の中で、だけどきちんと自分の住んでる社会のありかたを批判的に切り取っていくところが立派だなあという、そういう視線でわたしは見たい。

 それはいいとして、どうやらこれプロの俳優でなく素人をキャストに使ったみたいで、最初のほうはぎこちなくて洗練されていない演技にわざとらしさを感じたのだが、見ているうちにだんだんその素朴さがプラスポイントに感じられてくる。兵士たちと女の人たちの両方がイラン側のゴールに狂喜してぴょんぴょん跳んで喜ぶところとか、本ッ当に可愛い。
 あと、途中で兵士の軍服を着た女の人が捕まえられて連れてこられた時の、他の女の人たちのはしゃぎよう。「キャー!」「あんたこの服すっごいイイわ!」「どうやって手に入れたの?」大喜びである。この彼女たちの「軍服」「制服」への熱狂は、「男のふりをして女に禁じられた場所に潜り込む」というrebelliousな意志を共有する女達が、最も「男的」(すなわち最も禁じられたもの)な存在である兵士に擬態するという行為のラディカルさに興奮している、そういうコンテクストで見なくてはならないのであって、単なる「軍服カッコイイ」「制服の拘束感がステキ(うっとり)」というナイーブにして問題含みの視線と同一視されてはならない。ましてや、「男女平等を促進するならば女も兵士になるべきだ」という抽象的な意見や言説と方向を一にするものでも決してない。彼女たちの熱狂は、もっとしたたかで、素朴にして転覆的なものなのだ。それを考えたとき「女が兵士になること」をめぐるフェミニズムの議論というのはほんと一筋縄で行かないな、と思う。


 もちろん笑いどころだけではなくて少ししんみりする部分もあるのだが、それも何というか・・素朴である。たとえば登場する威張った兵士たちは一見「権力」の代行者のようだが(そして部分的には実際そうなのだが)、彼らもまたとても人間くさい。たとえば責任者の兵士は田舎の貧しい農家の出身で、本当は家で年をとった母親の手伝いをしたいのだと言う(おそらく家を金銭的に支えるために兵士をやっているのだろう)。そして少女たちが一人でも逃げおおせれば、彼はまちがいなく兵士職のクビを切られてしまう。なんでイランの女だけがサッカーから閉め出されるのかと憤った少女達の一人に「じゃあ何、私がイランに生まれたのが悪かったって言うの?」と詰め寄られて、言葉をなくす彼の表情。
 あと親戚のおじさんに見つかって、「お前が勉強すると聞いて、そのために必死に金を稼いだんだ!これがお前の言う勉強か?」と罵られ、うつむく少女が印象的だった。このおじさんはまあジェンダーの意味では保守的な考え方の人ではあるのだろうけど、それだけでこの少女の「他人が自分を信頼して流した汗を裏切った」という痛い感情が消え失せるわけじゃない。そのへんもちょっと胸に迫りましたなあ。


 たいていはお説教的になりがちな、メッセージ性の強い、政治的なトピックのストーリーをこんなにチャーミングに描けるって良いなあ。日本では公開されるのかしら。もし公開されて、もし暇があれば見てみてください。


 このところParadise Nowといい映画の当たりが良い。お次はカンヌをとったケン・ローチのThe Wind That Shakes the Barleyです。面白いと良いですが。





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