本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
Posted by まめやもり - mameyamori - 2006.10.25,Wed
ひっさしぶりに更新。
イギリスTVにはチャンネル4ってのがあって、夜遅くなるとこう、スプラッタ映画とかホラーアクション映画とかそんなのばっかりやっています。ちなみに日曜日にはThe League of Extraordinary Gentlemenがやってた。これ映画はどっかで聞いたことある名前ちりばめただけの嘘っこアクションぽかったけど、漫画版はパロディっぷりがけっこうエグいらしいので一度読んでみたかったりする。
そのチャンネル4でたまたまやっていたスリラー映画を見たら、意外となんだか強烈な映画だった。
Shane Meadows監督のDead Man's Shoes。2004年のイギリス映画で、どうやら日本では公開されていないらしい。
こういう映画を「良い映画だ」と言うことはわたしにはできないし、ひとに勧めるのもなかなかに難しいのだけれど、ものすごい緊張感のある映画だったということだけは言える。えらそうなこと言えるほど映画をたくさん見たわけではないのだが、これだけ独特の雰囲気を持った作品であるなら、日本で公開されてもいいのではないかなあと思った。その雰囲気は同じくドキュメンタリー調でホラーを撮った『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の雰囲気とはまた全然違っていて(まあ、あれはネットとのタイアップが主な目玉だったらしいけど)、いや本気で怖かったです。しかしこう、すごく後味の悪い怖さなんだ。
二人の若い男がイングランドの田舎町の、目にも鮮やかな緑の中を歩いていくところから作品は始まる。二人は兄弟だ。兄のリチャードは軍隊から帰ってきたばかりで、町のちんぴら集団に復讐をしようとしているのだ。なんの復讐かと言えば、それは軽い知的障害のある弟のアンソニーを、そのちんぴら集団が胸くそ悪い形で笑いものにし暴力を加えた、その復讐なのである。麻薬か酒でべろんべろんに酔ったちんぴらをガスマスク姿で脅すというような、「些細な」心理攻撃に始まった復讐は、しかし次第に・・・というのがあらすじ。
先にも書いたように、この映画はかなりドキュメンタリー調で仕立てられていて、素人を起用してもいるらしい。ちんぴら同士の会話も(スラングだらけでかなりわからんかったが)やけに自然というか「ありそう」で、思わず笑ってしまうほどだった。そうした「リアルさ」はちんぴら集団がアンソニーを虐めるシーンにもありありと出ている。この映画の後味の悪さと、見ている間のしんどさというか緊張感は、そのリアルなグロテスクさから来ているものでもある。
しかしこの映画のリアリズムの特徴は、暴力シーンを克明に描いているとかいないとかいうものではなくて、むしろ笑いと恐怖が瞬時に交替する感覚、あるいはユーモアと恐怖が同時に共存するあやうさを描いたことにあると思う。たとえばガスマスク男に震え上がったちんぴら3人がボスの所に飛んでいき、起こされて激怒したボスがドアを開けるシーン。ボスの顔は彼が寝てる間にピエロみたいにカラーリングされているのだが(もちろんリチャードがやったのだ)、ボスが激怒してる怖さと、そしてその顔が本人が気づかないままピエロになっているナンセンスな異常さがどこか背筋を凍らせるので、笑うに笑えない、でもその真っ赤なお鼻とほっぺたは間抜けでしょうがない、というような、噴き出すに噴き出せない引きつりみたいなものが、とくに前半で映画全体を支配していた。それはただ恐怖だけで話がひっぱられていくよりも、もっとずっと神経を逆なでする緊張感なのだ。そしてこれは、よくピエロという造形でホラーに登場するような、おどけたサイコでスプラッタな感じとはまったく違うものである。恐怖することも爆笑することもできないひっつれ感。イギリス映画を見るたびにそのブラックユーモアには感嘆させられるのだが、こうしたユーモアの使い方は新鮮だった。
たぶん、こういうスリラーな映画に「徹底的に被害者であるイノセントな障害者」をもってくるあざとさみたいなものが、この映画を「優れた作品」と言い切れなくしている要因ではある。だがしかし・・・中途まで、「おい、これ弟を殺して兄も自殺っていう最後にするなよ。絶対するなよ。もししたらクソ映画評価決定だからな」とか思って見ていたのだが、ちょっと思わぬ方向に話が進んだので、どうもそういう点を追求する気力がなくなっている分、みごとに制作者の術中に嵌っているというか・・・あるいは普通は予想される展開なのか・・・少し時間が経ったらもう少しきちんと批判できるかもしれない。(いま現在見終わってから1時間経過したとこ)
とりあえず、うち捨てられた古城のあるイングランド田舎町の風景が美しかったなあ。あと、音楽もよかったです。UKロック詳しくないのであまりよくわからないんですがね。少し不満があるとしたら、途中で使ってる荘厳な聖歌をもうちょっと減らして、最後までゆっくりした感触のロックで貫いた方が雰囲気出せたんじゃないかと思う。
ところでDead Man's Shoesで日本語サイトをググって出てきたページ。タワーレコードによるサントラの解説。
> サントラの音の構成は、ナイーヴで傷つきやすいロックで
> 綴られていく。スモッグ、キャレキシコ、アデム、アーリーズ・・
> イマ的な心の隙間に流れる荒野への癒しのロック。
ウムゥ
これを書いた人間、映画見たんだろうか。見たんだろうか!
いや確かに、荒野っぽいけどね!舞台!
もし映画を見た上でこの文章が書かれたんだとしたら、そのナイーヴさとイマ的な心の隙間感覚と癒しの心の傷つきやすさに、そっちのほうが泣きたくなります。
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