本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
Posted by まめやもり - mameyamori - 2008.06.19,Thu
このあいだ日本に帰国したときの飛行機の中で見ました映画一本目。ふだんはなんでかハリウッド系の映画を見ないので(面白いのがあるのは知ってるんだけど……)、高額な予算で作られたUSA映画はもっぱら飛行機のなかで見ます。
恥をしのんで告白しますと、わたしはホラーとファンタジーが大好きな人間です。なんで恥をしのんでかというと、ホラーとファンタジーが低俗なジャンルであるからでは全くなく、わたしがホラーとファンタジーで見てる作品が超B級であることが多いからです。いや正確に言うと、ホラーとファンタジーならどんだけB級映画でも見れるんだ。恋愛ドラマはB級だと10分と見続けられないんだ。つーかB級かどうか知らないけど見続けられないのもあるんだ。
だもんで、飛行機の中の映画リストでこの二つのジャンルにかぶるやつがあった場合、たとえB級臭がどれだけかぐわしくぷんぷん匂っていても見てしまいます。
そんなわけでこの『ベオウルフ 呪われし勇者(原題Beowulf)』も長距離フライト一発目で見たんですが
ええ! ほんとうにB級でしたとも!!
びっくりするほどB級でございました。
びっくりするほどB級でございました。
ちなみにオリジナルの『ベオウルフ』のために断りを入れておきますと、本来この物語自体は、ホラーやファンタジーなんぞというジャンルでくくれるようなチンケなものではありません。ましてやこの映画だけを見て「B級wwwwww」と軽んじていいような代物でもありません。文学史と歴史に燦然たる名を残す、ヨーロッパを代表する英雄叙事詩です。アングロ・サクソン語(古英語、ノルマン王朝によるフランス語の影響が入る以前の英語)で中世に書かれたこの英雄物語は、現在イギリスを代表するエピックとして数えられてもいます。ドイツなら『ニーベルンゲンの指輪』、フランスなら『ロランの歌(オーランドー)』、スカンジナビアなら『エッダ』とかと並んで引き合いに出されるような類いの文学ですね。もっとも、『ベオウルフ』の物語の舞台はデンマークであるようですが。
そのあらすじは、「ベオウルフ」と呼ばれるゴート族の強者(つわもの)が、デンマーク王国を苦しめる悪鬼グレンデルと死闘をくりひろげるお話です。
で、映画版の『ベオウルフ』はその雄大なる叙事詩のプロットを使わなかったのか……と言うとそうではなく、物語の大筋は原作に従って作られているようです。原作では二部にわかれているものを一つの話にしたことにともなう改変はあるようですが。いや、実は原作をきちんと読んだことがないので、どこまで細部が忠実なのかはわからないんですけど。
ただこの映画、変な場所で原作らしさを出そうとしたがゆえに、つまりは原作の背景世界である「血と力と暗黒の時代」らしさを妙な部分で妙に演出しようとしたがゆえに、ことさらにB級になったんではないかという気がするんですが……
中国の古代戦記物とかでもそうみたいですが、そもそも古い時代の英雄物語や神話というのは、「ありえねえ!」と思わせるエピソードに満ちあふれています。スコットランドからアイルランドまでものを投げたら届いちゃったとか、五歳で熊に打ち勝ったとか(これ金太郎でしたっけ)、そういう人間離れした数々のエピソードで英雄たちの猛者っぷりが演出されているわけです。
で、こうした「ありえねえ」エピソードは、それ相応のかっこいい古めかしい文体と修辞の雰囲気のなかで想い描くからこそ、古代の神秘の香りを漂わせるものとなるわけで、それを現代的な感覚での「リアル」で描こうとするとギャグにしかなりません。
この映画が失敗してるのは——あるいは狙ってやったのかもしれませんが——そこです。ベオウルフの人間離れした力とか、グロテスクな見た目の化け物の人食いシーンとか、全部CG使いまくって「リアル」に再現しやがった。これがB級にならずになんになる。
たとえば起きたばっかりのベオウルフが夜襲をかけてきたグレンデルに立ち向かうシーン。ここでベオウルフ役の俳優は最初から最後まで、全裸でグレンデルとやりあいます。全裸で巨大な怪物に虫みたいにガニマタにしがみついて、しかも武器を使わずグーで怪物の頭を殴ります。
おそらくこれは、原作での記述とか(生まれたままの姿で、その強靭な拳をもってグレンデルをおののかせた、とかそういう……)にもとづいているんだろうと思います。いや原作知らんのだけども、そうでなけりゃこんな戦闘風景にする必然性がないからね。だけども、ヌルヌルしたエイリアンみたいな化け物を全裸でグーで殴る男の姿は、どうやってもギャグにしか見えません。巧妙に下半身が隠されつづけているのが、また笑いを誘います。
これはほんの一シーン。そのほかにも、海の怪物との闘いとか、クライマックスの空飛ぶ竜との闘いとか、とにもかくにもベオウルフの立ち回りや戦闘が徹頭徹尾ギャグ臭い。
あと、啓蒙の光が差し込む前の暗黒中世を演出しようとしたのか、とにもかくにも「残虐さ」と「グロさ」と「下品さ」が全面に押し出されているのですが(たぶんR15かR12くらいは指定されている)、そういうスタンスとしてのエログロが、スプラッタホラーのレベルを抜け出ていないんだよなあ。というかCG使った作品ってどうしてもそうなる気がする。
なんだかよく見るとすごいキャストではあるんです。このお化けの母親どっかで見たことあるなーと思って見ていたらアンジェリーナ・ジョリーだったりするし、このおじさんどっかで見たぞと思ったらアンソニー・ホプキンスだったりするし。というかアンソニー・ホプキンスとか、『The League of Extraordinary Gentlemen』のショーンコネリーとか、いい俳優のくせに変な映画出るよなあ、たまに。
というわけで予想以上のB級臭さに笑ったり辟易したりしつつも、結局最後まで見ましたよ。なんたってホラーとファンタジー大好きだからね! うーん、ここまで行くとB級映画のコアファンにもそれなりに訴える内容なのでは? と思うほど。つーかゼメキス監督はこのコアな陳腐さをはじめっから狙ったのかもしれないね……。
あと、この映画の大事なポイントは「全編3Dである」ということにあるようです。専用の映画館で見なきゃ駄目なんだね……ノートパソコンよりちっこい飛行機の座席ディスプレイなんかで見ちゃ駄目だったんだね……
まあ、でも、おそらく昨今のファンタジーや中世ブームのなかで映画化されたとおぼしき作品ですが、こんなんで多くの人の「ベオウルフ」という叙事詩のイメージが定着してしまうんだったら、さぞや罪深き映画だなという気はする。
そのあらすじは、「ベオウルフ」と呼ばれるゴート族の強者(つわもの)が、デンマーク王国を苦しめる悪鬼グレンデルと死闘をくりひろげるお話です。
で、映画版の『ベオウルフ』はその雄大なる叙事詩のプロットを使わなかったのか……と言うとそうではなく、物語の大筋は原作に従って作られているようです。原作では二部にわかれているものを一つの話にしたことにともなう改変はあるようですが。いや、実は原作をきちんと読んだことがないので、どこまで細部が忠実なのかはわからないんですけど。
ただこの映画、変な場所で原作らしさを出そうとしたがゆえに、つまりは原作の背景世界である「血と力と暗黒の時代」らしさを妙な部分で妙に演出しようとしたがゆえに、ことさらにB級になったんではないかという気がするんですが……
中国の古代戦記物とかでもそうみたいですが、そもそも古い時代の英雄物語や神話というのは、「ありえねえ!」と思わせるエピソードに満ちあふれています。スコットランドからアイルランドまでものを投げたら届いちゃったとか、五歳で熊に打ち勝ったとか(これ金太郎でしたっけ)、そういう人間離れした数々のエピソードで英雄たちの猛者っぷりが演出されているわけです。
で、こうした「ありえねえ」エピソードは、それ相応のかっこいい古めかしい文体と修辞の雰囲気のなかで想い描くからこそ、古代の神秘の香りを漂わせるものとなるわけで、それを現代的な感覚での「リアル」で描こうとするとギャグにしかなりません。
この映画が失敗してるのは——あるいは狙ってやったのかもしれませんが——そこです。ベオウルフの人間離れした力とか、グロテスクな見た目の化け物の人食いシーンとか、全部CG使いまくって「リアル」に再現しやがった。これがB級にならずになんになる。
たとえば起きたばっかりのベオウルフが夜襲をかけてきたグレンデルに立ち向かうシーン。ここでベオウルフ役の俳優は最初から最後まで、全裸でグレンデルとやりあいます。全裸で巨大な怪物に虫みたいにガニマタにしがみついて、しかも武器を使わずグーで怪物の頭を殴ります。
おそらくこれは、原作での記述とか(生まれたままの姿で、その強靭な拳をもってグレンデルをおののかせた、とかそういう……)にもとづいているんだろうと思います。いや原作知らんのだけども、そうでなけりゃこんな戦闘風景にする必然性がないからね。だけども、ヌルヌルしたエイリアンみたいな化け物を全裸でグーで殴る男の姿は、どうやってもギャグにしか見えません。巧妙に下半身が隠されつづけているのが、また笑いを誘います。
これはほんの一シーン。そのほかにも、海の怪物との闘いとか、クライマックスの空飛ぶ竜との闘いとか、とにもかくにもベオウルフの立ち回りや戦闘が徹頭徹尾ギャグ臭い。
あと、啓蒙の光が差し込む前の暗黒中世を演出しようとしたのか、とにもかくにも「残虐さ」と「グロさ」と「下品さ」が全面に押し出されているのですが(たぶんR15かR12くらいは指定されている)、そういうスタンスとしてのエログロが、スプラッタホラーのレベルを抜け出ていないんだよなあ。というかCG使った作品ってどうしてもそうなる気がする。
なんだかよく見るとすごいキャストではあるんです。このお化けの母親どっかで見たことあるなーと思って見ていたらアンジェリーナ・ジョリーだったりするし、このおじさんどっかで見たぞと思ったらアンソニー・ホプキンスだったりするし。というかアンソニー・ホプキンスとか、『The League of Extraordinary Gentlemen』のショーンコネリーとか、いい俳優のくせに変な映画出るよなあ、たまに。
というわけで予想以上のB級臭さに笑ったり辟易したりしつつも、結局最後まで見ましたよ。なんたってホラーとファンタジー大好きだからね! うーん、ここまで行くとB級映画のコアファンにもそれなりに訴える内容なのでは? と思うほど。つーかゼメキス監督はこのコアな陳腐さをはじめっから狙ったのかもしれないね……。
あと、この映画の大事なポイントは「全編3Dである」ということにあるようです。専用の映画館で見なきゃ駄目なんだね……ノートパソコンよりちっこい飛行機の座席ディスプレイなんかで見ちゃ駄目だったんだね……
まあ、でも、おそらく昨今のファンタジーや中世ブームのなかで映画化されたとおぼしき作品ですが、こんなんで多くの人の「ベオウルフ」という叙事詩のイメージが定着してしまうんだったら、さぞや罪深き映画だなという気はする。
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時折超つたない英語を喋りますが修行中なのでどうかお許しください。
A tiny lazy gecko (=yamori) always mumbling something
Please excuse my poor English -- I am still under training
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