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本、漫画、映画のレビューおよび批評。たまにイギリス生活の雑多な記録。
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Posted by - 2024.05.16,Thu
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Posted by まめやもり - mameyamori - 2007.03.15,Thu

 第三巻行きます。この三巻の(客観的な)売りはまちがいなく文庫の半分以上の頁を占める「エジプシャン・スタイル」でありましょう。バジルと共にエジプトに赴いたビクトリアが砂漠の真ん中で行方不明になってしまうこのお話、これ元々の単行本では一巻丸々だったのではないかな。砂漠の遊牧民族とビクトリアの交流の様子と、必死になってビクトリアを捜索するバジルの側を並行してフォーカスしながら、この時期の「大英帝国」のありかた----「本国人」すなわち英国人とその支配、ナショナリズムの独立運動、そして両者の双方から距離を取る誇り高い遊牧民族の三者----が描かれる中編。しかしまあバジルが必死になんのも無理ないわな。大事な友達ってのもそうだけど、この時期の英国の社会道徳を考えるに、ビクトリアになんかあったらバジルの社会生命終わってるんじゃないか。傍目から見れば、かりにも公爵夫人を正式な庇護者であるその夫から託されてるってことになるんじゃないのか?
 てなわけで『バジル氏の優雅な生活』全編通してもいちばん長いお話では?と思われるこの「エジプシャン・スタイル」だが、実はわたし特別好きってほどでもない。ユーモアタッチの漫画だってことで百歩譲っても、ビクトリアのたどる経緯があまりにも出来すぎ。楽天的で冒険心に溢れてればすべてがうまく運ぶんだったら、多分そもそも「本国」とエジプトの関係はここまでこじれてませんよ。まあこの漫画としてはこれ以外にやりようがないんだろうけど。
 でもエジプト駐在領事の描き方はなかなかだと思う。強権的な植民地支配の無理を痛感し、英国への地元民の反発に一定の理解を示し、「領事の仕事は略奪者に等しい」とまで言いながらも領事を続ける彼。
 「私は英国を裏切ったのかもしれない…しかしエジプト人でもありません」・・・このジレンマ。「バジルさん…エジプトはすでに五千年の歴史を生きてるんです 我々などここの人にくらべたらただの野蛮人にすぎない」。
 植民地国の歴史に「悠久の時」のイメージを付与しヨーロッパと区別する物言いは、それがたとい「褒め言葉」であっても大きな陥穽を孕んでいることはもうなんべんも言われ尽くされてきたことだけれど、でもこういう文脈で発されるとき、安易に一蹴できない重みがあるんでないかと(ほんのちょっとだけ)思った。

 さて、ではこの三巻で好きなエピソードはなんなのかというと、「写真屋」です。----小間使いのルイと一緒に初雪のロンドンを歩いていたバジルは、一人の大道芸人が地面に絵を描いているのを見かける。ところがどうもその人は、誰もその顔を見たことがないという下町の不可思議な写真家であるらしい、彼の撮る写真は真っ黒な闇の中にただボウと光が浮かび上がっているだけの、理解しがたいものだった----。聖書の世界に心を奪われた芸術家が、強迫神経症じみたホモ・フォビア社会の中で破滅していく様子が描かれたこのお話は、完成度高いと思います。「そのあと 雪が降った その雪がとけると もう道の上には 絵はなかった」という最後の言葉が、淡々としていながらも残酷。






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Posted by まめやもり - mameyamori - 2007.03.14,Wed
 小学生の頃に、姉が友人から借りてきたこの作品の愛蔵版をちょっとだけ見せてもらったことがある。読んだことがある漫画雑誌といえば、りぼん、なかよし、ジャンプ、それにせいぜい別マくらいなもんで、漫画というものの世界をひどく狭くしか知らなかったわたしは、それを読んで、なんだかつかみどころのない不思議な印象の漫画だと感じた記憶がある。その『バジル氏の優雅な生活』の文庫本を、半年くらい前にたまたま人から貰って読み直した--------というより、全部読み通したのはそれが初めてだった。全体的には、記憶にあったものよりもロマンチックで少女漫画らしいと感じた。文庫本で5巻に渡る作品の多くは、悪者がこらしめられ、少女が美しく成長し、若者たちの恋が時には年齢や身分(階級)などの障害を越えて可愛らしく実るお話に占められている。遠い昔に形成された勝手な脳内イメージにおいては、確固とした起承転結の無いシュールで含蓄ありげな作品ということになっていたため、ちょっと意外だった。それでも各所各所に情緒ただよう作品があって、それはそれで、なかなかよろしい。

 おそらく坂田靖子の代表作であろうこの作品は、19世紀末ビクトリア朝時代のイングランド貴族社会を舞台に、粋な女たらしの貴族バジル・ウォーレン卿と彼をとりまく人々の様々なエピソードを連続短編式に描いたものである。かつての少女漫画の中には、具体的にどの時代なんだかよくわからない、ときにはどの国・地域なのかすらさっぱりわからんような、憧れ(と偏見?)のごたまぜとしての「西洋」を舞台にしているものが意外と多いもんだが、その点この作品は時代考証が結構しっかりしているのに感心させられた(むろん中には有り得ない展開や設定もありますが)。とくにこの時期のイギリスが社会的にも「大英帝国」として存在していたことを意識して描いているのはなかなか偉いと思う(エジプト来訪のエピソード、中東の美青年通訳のエピソードなど)。

 てなわけで、ここでは文庫版5冊を、それぞれの巻から気に入った話を一つ二つ選びながら紹介していこうと思う。今回は第一巻--------といきたいところなのだが、第一巻友人に貸したまんまなので、第二巻から。(しょぱなからなんか蹴つまづいてる)

 第二巻では破天荒な公爵令嬢ビクトリアが初登場する「ウィッシュ・ボーン」がなかなか良い。しかもこの破天荒というのが単におてんばとか男まさりとかいうんではなくて、化石掘りにうつつを抜かしていたり、考古学に異様な興味を持っていたり、『ナマコの生態』をはじめとする良く分からん本を40冊制覇しようと日々頑張っていたりするという、そういう具体性がさすがというか・・・考古学や古生物学などの近代の歴史をふりかえれば、確かに「貴族の趣味」としての発掘・発見が果たした貢献が結構大きいはずだ(それがビクトリア朝末期でどのくらいさかんだったかまでは知らないが)。まあ全体的にこの人は魅力的で、わたしの友人の一人は彼女をしてドンピシャ好きなタイプと言った。わたしも好きです。「夫はほとんどの女が手に入れるけど本当の友達を持ってる人はめったにいないわ これははっきりした求愛【プロポーズ】よ!それとも結婚する女などはもう用はない?」・・・ああこんなこと言ってみたい。もしくは言われてみたい。

 だが第二巻でいちばん好きなエピソードはそれではなくて、「エデンの園」に入っている第三話・「老婦人の夏」。誰よりもつつましい貴婦人として知られていたある貴族の未亡人が、突然若い恋人をこさえるお話。どうも最近年を取ったのか、こういう・・・盛りを終えた人間の、愛情や恨みや憎しみや諦めや欲なんかがいろいろ複雑に入り交じった感情がゆっくりと描かれる、という話に弱い。この話はちょっとドラマチックに過ぎる気はするけれど、そういう静かな底深さみたいなものがちょっとただよっているなあと思う。


そりゃ…夫が出ていった時はいろんなものを憎んだわ
結婚も…愛情も 身分も財産も 領地も…
夫が私に押しつけたものすべて
----でも今度旅をしてわかったの
私…憎しみと同じぶんだけあの人を愛していたのよ
それが解った時とても惨めだった!
  (中略)
小春日和は見せかけの日だまりだわ
でも冷たい冬の中でそれがどれほど嬉しいと思って?

 うわあ長い引用。(すみませんすみません)でも良い。良いと思いませんかこの台詞。
 話の流れとしてはそれほどあっと驚くものではないのだけれど、この貴婦人の哀切さがよく描かれた一話だと思います。彼女が最後に見せる嘲りの顕著な台詞と表情は、ただ運命に翻弄されつづけた哀れなヒロインとして彼女があるわけではなく、その運命のなか、彼女が「淑やかな貴婦人」の表情の裏でひそかに育てた残酷さを表します。そうして、その残酷さと嘲りを、完璧なまでに非生産的なものとして描いたところが、わたしは好きだ。






Posted by まめやもり - mameyamori - 2006.08.18,Fri
もう二ヶ月ほども前に、友人がHP日記で「皆さん「キライな本」ってどんなのがあります?」って質問をしてた。
ちょっと面白そうだ、ブログで書こうかなと思って考えてみたのだけれど、・・・それがなかなか思いつかない。さすがに読んだ小説すべて素晴らしいなどと思ってきたはずはないので、絶対にあるはずなのだけど・・・しかし意外と難しい。あんまり印象に残らない作品は多々あれど、「嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!ああああ!」と叫びたくなる小説というのは少ないものなのか・・・あるいは単に忘れてるだけなのか。

しかし、漫画となると不思議なことにこれが けっこう アル
ということで、「嫌いな漫画」シリーズを行ってみたいと思う。一回一ジャンル。ジャンル数未定。今のところ「作者に幻滅編」、「MoててMoててKoまっちゃう〜MMKアホか編」、「いくつになっても、大人げないの。〜食わず嫌い編」などのジャンルを予定。(超・適・当!!)


そんなわけで

第一回 作者に幻滅編 いけにえ:日渡早紀『未来のうてな』



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